方法(method)は常に目的(purpose)に沿って選ばれるべきものである。 どのような学問であっても目的があり,そのために方法を取捨選択すること, あるいは新たに編み出すことを行ってきた。 心理学においてもそれは同じである。
歴史上,心理学と呼ばれたことのある学問だけを並べてみても, 様々な方法が用いられてきたことがわかる。 そしてそれらは各々,心についての何らかの哲学的立場に裏付けられたものである。 しかし,現代の若い心理学者たちはこのことを往々にして認識していない。 加えて,心理学者が用いている多くの方法はその正当化において心理学以外の分野の理論にも依拠しているはずだが, それら他分野の理論との整合性や依存性について十分吟味し自覚されているとは言い難い。 それどころか心理学内の整合性すら危ういと言わざるを得ない。 これらはもちろん深刻な問題ではあるが,認識不足を非難するだけでなく, なぜそうなったのかについて考えることが重要である。
また,統計学が文法となっている現在の方法論において, 統計学のHow Toユーザが増え,それを嘆く声がしばしば聞かれるようになった。 どのように統計学理論の前提や一貫性を無視しているかを指摘するのはそれなりの意義があるが, これについてもどうしてそのような事態になっているのかを考えなければ,根本的な解決にならない。 統計学もまた目的を達するための手段の一つに過ぎないはずであり, マニュアル化された手続きに無根拠に従うのでなく, 研究目的に照らし熟慮して道具箱から使う道具を選び出す(時には道具を自分で作る)姿勢づくりを目指したい。
この研究会では現在の心理学研究における科学的な方法論を学び,方法論的概念を再考,再確認する。 その目的は「実際のところ我々はいま実質的に何をやっていて,このやり方では何ができて何ができないのかをきっちり把握する」ことである。 さらに発展として,現在の心理学者たちはいわゆる「心の哲学」として(自覚の有無は別として)どういう立場を取っているのか,について議論する。
毎月いずれかの土曜日に,京都大学(またはその周辺)にて開催しています。
現在,参加者の顔ぶれは,超若手の研究者たちです。主に心理学者です。(年長者お断りではありません。ときどき参加されます。)
扱っている内容は,下記の履歴を参照してください。大抵は議論三昧です。
業界では「主観」と「科学」と「心理学」の三者の共存は不可能だとする意見が散見される中, どのようにバランスを取れる可能性があるか(あるいは無いか)を議論した。
結果として,同じように「主観」という言葉が使われる対象のそれと研究者のそれを区別し, さらにそれぞれを2つに分け,計4つに分析されることにより, 主観と科学と心理学は仲良くやっていける道があるという結論で満場一致。
多重検定 multiple testing の問題は, 多重比較 multiple comparisons など一部の文脈では必須扱いされる一方,別の文脈では完全に無視されている。
計画的 planned / 非計画的 unplanned と呼ばれる区別と,仮説族 family の点からこれを議論する。
会で提案された,まともそうな将来の方向性:
心理学における理論や仮説にて,説明項,被説明項として頻出であるが非常に怪しい "行為" action について, 今回は行為の同定 identification からその怪しさを探ってみる。
非常に難しい問題であるが,難しいということすら多くの心理学者には認知されていない。
Judd & McClelland (1998) の後半を題材に,いわゆる "psychometric measurement" とはどのようなものか,について議論した。
さらに,axiomatic measurement との差異,そして両者の関係性について議論した。
関係性はまだまだ未開拓領域。
人工知能学会誌での特集をうけてタイムリーネタ
議論のポイント:
毎年恒例,年始め激論大会
余談: 長期的にどうすればテレビにでてるアレなカガクを減らせるか
FoM読書会での公理的測定論の勉強成果を踏まえて。
心理学や社会諸科学には,測定に関する2大潮流がある。 1つが公理的測定 axiomatic measurement ,もう1つが心理計量学 psychometrics 。 公理的立場ばかり紹介していてはバランスが悪いので,心理計量も取り上げなければということで, 両者をあわせて載せている希少な文献を探して,これらの違いや関係について,そして将来の方向性について展望する。
前半のみ。
「高次」という用語が関連分野で広く使われているが,この用語の定義が書いてあることはまずない。 しかし一方で,この語は日常語ではなく明らかに専門用語である。
我々の分野で「認知」などを修飾するこの「高次」というやつは一体何を意味しているのかを議論して明らかにしてみたい。
結局,1ダース以上の区別される意味が挙げられた。
因果関係の推定の目的で使われることの多い統計手法「傾向スコア (propensity score)」を取り上げ, その特徴と,背後にある考え方を議論したい。
我々の仕事で因果関係について主張する場面は多々あるが,その根拠とする方法は1種類ではなく,多様にある:
そしてそれらの背後に,「因果」に対する考え方・捉え方の違いが隠れているかも。できることなら,それをあぶり出してみたい。
日心2006シンポ の宿題,最後の1つ,ようやく。
現在の基礎的心理学においては,大きく2つの流れにおいて意図という用語が扱われている:
生理学的アプローチや作動記憶メカニズムとのつながりで研究されているのが主に前者。 それ以外にも,意図に関係する心理学の研究分野はいくつかあるだろう。
意図の研究においても具体的研究方法は多様だが,「意図」の多様性に起因する部分が見られるので, まずは意図概念をクリアカットする。意図性(intentionality)や,意志などの似た概念(will, volition, determination, decision, etc.)との区別も意図を際立たせるのに有効かも。
主な論点:
第4章 Difference Measurement 中盤
担当: 中西
1ダース以上の指標例から主に3つ。
第4章 Difference Measurement 前半
担当: 中西
第3章 Extensive Measurement 後半
担当: 常深さん
毎年恒例,年始め激論大会
刀を返して「何を目指すのがよいか」
第3章 Extensive Measurement 前半
担当: 常深さん
第1章 Introduction 後半
担当: 中西
第1章 Introduction 前半
担当: 中西
参考文献
教官: 近岡さん
参考文献の一例
どうなっていれば絵的表象と言えるのか?で白熱しました。
文献に頻繁に登場してあまりに常識的(?)な用語「理論」と「モデル」について, それらは何であり,相互にどういう関係にあり,また,心理学者の活動において どのような位置づけにあるのか,を議論します。
参考資料: 人工知能学会誌 2009年3月号 特集「認知科学におけるモデルベースアプローチ」
NHSTのはらむ問題の解決策の1つとして,近年提唱された prep に焦点を当て,
を議論しました。
また,prep の背後に隠されている Bayesian な立場も明らかにされました。
さらに話は Bayesianism の良し悪しにまでふくらみました。
そしておせっかいにも,伝統的 p value の生き残る道が模索されましたが・・・。
問題点と対策の一例として,ADF3 にフォーカスを当てました。
John Stuart Millの方法論や,原因の素朴概念の分析を参照して,因果究明の困難さのエッセンスと統計分析との関係を検討しました。
毎年恒例,年始め激論大会
心,行動
説明,記述,予測,制御
因果,機能,仕組み,メカニズム
共有性
研究の仮説やモデルを,自然言語ではなく数理的に記号表現できるようになるための,トレーニングセッション。
実際に行われている研究についてその目的と手法に関する(主に方法論的)前提を議論します。
今回の事例題材は,SD法や態度尺度,場面想定法などを使った研究です。
主に信頼性,妥当性概念について実際の研究を例に検討します。
item response theoryを題材にしながら,我々が測定したい関心対象に 応じてそれに最低限必要な尺度の性質は何か,ということを幅広い心理 学的対象を見渡しながら議論する。
参考資料: 岡本(2006)「計量心理学」第6章, 豊田(2002)「項目反応理論入門編」, 豊田(2005)「項目反応理論理論編」
advancedな議論のキーワード:
教官: 龍輪さん
参考資料: 岡本(2006)「計量心理学」第2章, 第3章
参考資料: 岡本(2006)「計量心理学」第1章
作図のルール: 前2回と同様.
優勝: 常深さん
コンペを通して,より良い視覚化の技術を磨く。
作図のルール:
優勝: 猪原さん
より良い視覚化を目指して,みんなで図を描き,相互評価。
作図のルールは
優勝: 田村さん
今年もやりました,第二回。
盛り上がった論点:
新企画,第4のコーナー。心理学の方法論的概念を初学者に対してどのように教えるのがより良いかを模索する。
今回は「分布」について。
教官: 常深さん
EQD読書会を踏まえての議論第2弾。
心理学では,理論的構成概念を導入して,しかもそれを測定する,ということをやることが多いようだが, どうしてそんなことができるのか,何かをある仕方で「測定」するというときに備わっていなければならない のはどんな要件か,を議論します。
この要件には,generalなものから,前述の「何か」や「ある仕方」に依存するものまで含まれますが,今回は題材として
の3種を題材にします。
EQD読書会を踏まえての議論第1弾。
豊田さんの著書「共分散構造分析[入門編]―構造方程式モデリング―」の第9章「因果モデルの構成」を読んで, 思うところを述べ合う。
日 | 章 | タイトル | 担当者 |
---|---|---|---|
8/22 (水) | 第1章 | Experiments and Generalized Causal Inference | 龍輪 |
第2章 | Statistical Conclusion Validity and Internal Validity | 唐牛 | |
8/24 (金) | 第5章 | Quasi-Experimental Designs that Use both Control Groups and Pretests | 猪原 |
第7章 | Regression Discontinuity Designs | 常深 | |
第9章前半 | Practical Problems 1: Ethics, Participant Recruitment, and Random Assignment | 野村 | |
9/1 (土) | 第9章後半 | Practical Problems 1: Ethics, Participant Recruitment, and Random Assignment | 野村 |
第3章 | Construct Validity and External Validity | 唐牛 | |
第11章 | Generalized Causal Inference: A Grounded Theory | 田村 | |
10/13 (土) | 第10章 | Practical Problems 2: Treatment Implementation and Attrition | 野村 |
第14章 | A Critical Assessment of Our Assumptions | 中西 |
心理学で最も頻繁に適用されている統計モデルである線型モデルについて, その適用可能性と効用,限界を議論する。ここでは,最狭義のいわゆる線型モデルだけでなく, 一般化線型モデル,線型混合モデル,共分散構造モデル,ARMAモデルなども議論対象に含める。
感情について,特に感覚や意識との関係で議論します。もちろん, これらの言葉は「専門用語として」扱います。 主な論点は,
盛り上がった点
意味(meaning)に関して,特に指示(reference)との関係について行われ た仕事を勉強します。 対象となるのは,一つには,ミル,フレーゲ,ラッセル,ストローソン, サール,クリプキなどの指示理論に関する仕事です。もう一つは, これらの面々に加えて,タルスキやモンタギューなど,真理論,形式意味論に関する仕事です。
勉強の結果をまとめる手がかり
発達研究の興味対象やその研究法についてどんなところが特徴的か?
「発達」をかなり広く取り,「経時的変化」に関するものとして議論を開始しましたが, それではうまく行かないことが露見しました。
議論の手始めは
盛り上がった論点
経験的心理学研究において基礎的な概念の1つ,「尺度」とその構成手法について議論します。
混沌を真面目に抜け出す。
「心理学とは何か」という問いの最も重要な一部である「心理学とは何を目指す学問か」を議論。
盛り上がった論点
盛り上がった論点は,
実際に行われている研究についてその目的と手法に関する(主に方法論的)前提を議論します。 対象の事例は,物語文章の読解過程と長期記憶の知覚的側面との関係を検討したものです。
盛り上がった論点は,
overall quality!
実際に行われている研究についてその目的と手法に関する(主に方法論的)前提を議論します。 対象の事例は「情動表出の制御能力の発達」に関して検討したものです。
持ち越した議論は,
実際に行われている研究についてその目的と手法に関する(主に方法論的)前提を議論します。 対象の研究事例は「運動図形への心的状態の帰属と共感の関係について」。 テーマが心理学,心の哲学にとって根本的なものであるだけに,たくさんのポイントが隠れていそうです。
重要な議論がたくさん行われましたが,持ち越した議論は,
次につながる話がたくさん出ました。"質的研究"についての議論は後に持ち越し。
実際に行われている研究についてその目的と手法に関する(主に方法論的)前提を議論します。 対象の研究事例(野村さん提供)は「発話内容の感情価が顔面表出に及ぼす影響」に関するものです。 コミュニケーションと感情は,ともに非常に深い方法論的議論ができるテーマ。 唸る人が続出。
「周りの心理学者たちはどう考えているか(記述)」だけでなく, 今回は「どう考えるべきか(規範)」 についても議論しました。
上記の各説について,
を議論する。
8/9 (火) | |||
---|---|---|---|
時間 | 章 | タイトル | 発表者 |
10:00-11:00 | 第1章 | Causal Inference and the Language of Experimentation | 野村 |
11:00-12:00 | 第2章 | Validity | 毛利 |
12:00-13:00 | 昼休み | ||
13:00-14:00 | 第3章 | Quasi-Experiments: Nonequivalent Control Group Designs | 木村 |
14:00-15:00 | 第4章 | The Statistical Analysis of Data from Nonequivalent Group Designs | 田村 |
8/17 (水) | |||
時間 | 章 | タイトル | 発表者 |
10:00-11:00 | 第5章 | Quasi-Experiments: Interrupted Time-Series Designs | 石橋 |
11:00-12:00 | 第6章 | The Statistical Analysis of the Simple Interrupted Time-Series Quasi-Experiment | 中西 |
12:00-13:00 | 昼休み | ||
13:00-14:00 | 第7章 | Inferring Cause from Passive Observation | 常深 |
14:00-15:00 | 第8章 | The Conduct of Randomized Experiments | 龍輪 |
測定は心理学にとってどの程度の関心事か?測定のどのような側面(e.g. 得られるもの,実施の容易さ,精度,etc) がどのように重要なのか?
生態学的妥当性の点で問題があるのに,それでも実験をするのはなぜ? ってゆーか,しなくてよい?
なにが quasi なの? それって良いこと?悪いこと?
この研究テーマじゃ操作とか統制とかできないんだから・・・って弁解してOK?
私の研究って無作為抽出してないんけど,ダメ?
このようなFAQに答えるために,以下の問いを考えてみましょう。
独立変数,従属変数,原因変数,結果変数,説明変数,被説明変数,目的変数,基準変数,予測変数, 共変数,剰余変数,交絡変数,干渉変数,二次的変数,第三変数,調整変数,媒介変数, 外生変数,内生変数,潜在変数,観測変数,指標変数, 確率変数,連続変数,離散変数,量的変数,質的変数,誤差変数,変量,ダミー変数 etc...
ここがポイント!
イントロダクション
当面は勉強会風に進めること, 進め方は「毎回のテーマについて調べてきてディスカッションする」に決まりました。 「研究報告(論文,書籍,学会発表,ゼミ発表)を批評する」 「輪読会」 はとりあえず先送りです。
名言集。(迷言集?)
「自分たちのやり方がどれだけ縛られているかを見直すんですよ。 方法論上の概念を追っていって一つ一つ,ほらね,って例証していくんです。」
「こんなやり方じゃダメだからやめてしまえ,もっと別の新しい方法を使え,って?」
「そうじゃないです。これまでの方法を使うのは別に構わないけど, その縛りに対して自覚がないのがダメだと言っているんですよ。」
「わかっていながらあえて受け入れるなら好きにすればいいってことか。」
「方法によって制約をうけることを念頭に置いていないから, とんでもない主張を繰り出してても平気な顔をしてるし,困ったことに周りもそれを見過ごしている。」
「神様でもいいですよ」
「還元できるけど還元しない」
「そうすると僕は心理学者じゃないかもしれませんね」
「まあそれはどうでもいいよね」